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COLUMN 01リノベーションで思いを繋ぐ
ある時、住宅相談会で農家住宅のリフォーム展示用パネルを出展したことがありました。
この展示会に来られた工務店さんとおぼしき人から、リフォームされた写真の中で使用した新しい構造材を指して「これらの新しい材は古色に塗った方が良いよ」という意見を頂戴しました。既存の建物の古材と同じ色に塗った方がグラフィック的には統一感が出て一体に見えるということでしょう。
私は、改修前にこの農家住宅の現地調査をしました。以前の改修事において土間の部分に床を作り、ダイニングキッチンとして改修されていました。そのダイニングキッチンの天井の点検口から薄暗い天井裏を覗き込んだ時、伝統に裏付けられた架構の力強い美しさが目に映り、しばし見とれながら感動を覚えました。この建物を普請した棟梁はすごいなぁと。
改修時には断熱性を高めることを前提として、この天井を取り払い、美しい架構を再び蘇らせることになるのです。
先ほどのご指摘を受けた件ですが、設計する立場から古色塗をしなかったのは、この立派な農家住宅を建てた棟梁の建物を生かしつつ、建物を継承していくという思いから、どこまでが元々の建物の姿であったのかを残したかったからです。ただ便利に奇麗に改修するだけではこの建物を建てた棟梁には申し訳がないと思ったからです。
新材は古材の中で目立ちます。しかし、時とともに木肌が落ち着いた色合いに変化し、馴染んでいきます。新旧の部材を見ながら、その時代の生活の様子が窺い知れ、改修されていったストーリーに思いを馳せることができます。リフォームの中に生活の経緯を込められた建物は、新築では味わえない価値があると考えています。
宮井泰造(有限会社 宮井建築設計事務所)