耐震断熱座談会

耐震断熱座談会symposium

既存住宅の耐震高断熱化について4人の設計者が
それぞれの経験をもとに
知識を深め、
技術の向上のために定期的に勉強会を
行っています。
考え方のヒントを覗いてみてください。

古民家の耐震断熱リフォームについて

多田
本日は古民家などの大きな家に暖かく住む方法について話し合っていきたいと思います。

大隅
古民家などは、これからも住み続けていきたい素晴らしいものがたくさんありますね。
ただ、生活するのには寒いなどのストレスのかかることが多いのも事実です。
正直、我慢はつらいですね。特に年配になってくると。ヒートショックの死亡率も交通事故より多いと聞きますし。

宮井
古民家の高断熱リフォーム工事に関しては、比較的規模の大きい物件が多く、予算との兼ね合いで断熱に関しての調整が必要なケースがでてきます。
古民家には2間続きで座敷のある家が多く、その多くが居住空間としてではなく、接客用として利用されています。普段生活されているのは奥の間なので、この居住空間こそきっちりとした高断熱が必要なエリアとなります。そこで提案するのが、断熱ゾーンの設定です。
玄関とそれに続く座敷の非居住空間と、奥の間とそれに付随するキッチン・トイレ・洗面所・浴室の居住空間の間で断熱ラインを想定するのがベストです。
断熱は室内側に断熱材を入れ、外壁の改修を極力減らす方法が費用的に適切かと思いますね。

村上
今取り組んでいる民家でも家まるごと断熱改修となると、面積が広い分費用が相当かかり現実的ではありません。そこで毎日使うエリアだけ断熱することにしました。
普段使わない続き間の和室は断熱ラインの外と割り切りました。

古民家の耐震断熱リフォームについて

光熱費の高騰と高断熱住宅について

多田
最近、電気代が高くなったという話がよくでてきます。
実際みなさん実感しているんじゃないでしょうか。

村上
テレビでも節電して電気代を抑える工夫などの特集をよくしていますよね。

大隅
電気代を高くする要因はいろいろあると思いますが、やはり冷暖房にかけるエネルギーの費用が多く占めていると思います。でもそこを我慢するというのはつらいですし、健康にもよくないかと。

多田
それを根本的に解決するのが住宅の高気密高断熱化で、わたしたちが力をいれているところですね。耐震・断熱は基本、それを土台にデザイン提案をしていきたいと思っています。

宮井
住宅の断熱という時、おうちにダウンジャケットを着せるとイメージしてもらうとわかりやすいかも。
そうすると生活に伴って発生する熱や日射取得で室内はそこそこ暖かくなると考えていいんじゃないでか。

大隅
電気代というと、福島に住んでいる知人の電気代が1か月10万円を超えたと聞いてびっくりしました。
ただ、同じ地域に住んでいる新住協のメンバーの家では無暖房に近い生活をしているので電気代は家計にそれほどひびかないと言っていましたね。
きっちりと施工された高気密高断熱住宅に住んでおられるのですね。

同じオール電化住宅 2023年1月支払い金額の比較

多田
そう、ただ断熱材を入れただけでは暖かい家にはならないということを知ってもらいたいですね。
30年位前に北海道で大量に入れた断熱材が結露して木材が腐ったということも聞きました。
隙間をなくす(気密をとる)施工をセットでしないと壁内に気流が走って結局寒いということです。

宮井
地球環境のことを考えても、少ないエネルギーで快適な生活をする方向になってきていると思います。
高気密高断熱住宅もスタンダードということだと思いますね。

村上
新築はもちろんですが、既存住宅を断熱改修でも十分暖かい家になりますし、費用的にも取り組みやすいですね。
今までように水廻りをきれいにするなどと同時に、一緒にやってしまえば夏冬共、どの空間も温度差のないストレスフリーの生活ができるということです。
高断熱化してエネルギーを少しでも節約できる家は、必然的に光熱費もかからないということですね。

古民家の耐震断熱リフォームについて

高性能な住宅の換気について

多田
本日は高気密高断熱住宅の換気について話し合っていきたいと思います。

大隅
高性能な住宅に必要な3大要素の「断熱・気密・換気」の中で一番難しい分野ですね。
換気については図面からの検討と換気計算の結果が現場でしっかり機能しているかが実務の上ではすごく難しく感じています。

宮井
空気の流れ(気流)を読むことが大切ですね。いくら設計上で検討していても気流のことを考えていないと大変な目にあいます。以前の案件でこんなことがありました。
その案件は古いお家の大規模改修の案件で、耐震と断熱改修をしっかりやってほしいとの事。結果、家族一同大変お家が暖かくなり、快適に過ごせていますとの事。
ただ、ダイニングで食事していると旦那さんが足元が寒いと仰られる。
奥様は全然そんなことはない、気のせいだと仰られる。どちらが本当なのかと思い、現場でいろいろ見てみると、エアコンからのSA(Supply Air:エアコンからの給気)が室内に供給されて、循環してRA(Return Air:エアコンへの還気)となる気流のルート上に食卓があり、まさにRAのルート上にそのお家の旦那さんの席がありました(笑)
その後気流の流れを少し変えることにより快適な食卓を囲めるようになりました。

村上
なるほど。そういった貴重な体験を聞けるのは本当にありがたいです。
家ごとにより間取りや方角など条件が違うので注意することは多いですね。
換気方式によっても違いがありますよね。最近、よく耳にする全館空調でエアコン一台で大丈夫だとか○○空調システムのような、それさえ採用すれば大丈夫という方式は本当に良いものなのでしょうか?

多田
新住協の会員様の施工事例でもいろんな方式が採用されていますね。
床下エアコン、階間エアコン、全熱交換機と第一種換気にマルチエアコンを組み合わせるなど多種多様な方式はあります。QPEXやその他の省エネ計算ソフトで検討しその家にとっての最適解を導き出したいですね。
間違っても、「コレさえ採用すれば大丈夫」のようなテンプレの方式はおかしいと思います。

宮井
換気の性能を担保するのは、気密性能を示すC値が大きく関係しています。
C値と漏気の関係を示す有名なグラフがありますが、それをみるとC値が大きい(気密性が低い)住宅は何もしなくても換気をしているかのようなエネルギーロスが発生します。
具体的にはC値が1.7㎠/㎡で外部風速4m/S、外気温0℃、周辺になにもなしという条件なら0.27回/Hの24時間換気が発生しています。なにもしなくてもそれだけの空気が勝手に入れ替わっていることは高価な換気システムを装備してもあまり効果がないということです。

大隅
これは重要ですね。盲点になってますね。
どうしても機器の性能や断熱材の性能の話ばかりになりがちですが、こういった施工の精度が建物の性能を決めることは意外に知られていないような気がします。
気密測定は必須になってきますね。

村上
そうですね。
新築なら比較的気密性は確保しやすいのでC値1.0以下は一般的ですが、リノベーションの場合はそこを目指すとしても、C値2.0くらいでも体感的に性能の良さを感じますね。
リノベーションでも大いに快適になりますね、経験的にそう感じますし、喜ばれます。

多田
それは素晴らしいですね!
エネルギ-価格が高騰する中、これからの住環境には必須の話題であったと思います。
家の内外の空気をコントロールすることはいろんな要素が関係しているので、我々も日々勉強して設計に生かせたらと思います。